名も無き市民の会は「労働、経済、外交、安保」政策などに取り組む民間有志のシンクタンク型市民団体です。

⼤阪維新の会による「⼤阪市廃⽌・特別区設置」に反対する声明

令和2年10月28日

名も無き市⺠の会関⻄⽀部⻑ 永觀堂雁琳
名も無き市⺠の会

 私達、名も無き市⺠の会は、⼤阪維新の会による「⼤阪市廃⽌・特別区設置」案(所謂「⼤阪都構想」)に反対いたします。
 まず断っておかねばならないこととして、この案は各メディアにおいて「⼤阪都構想」と呼び慣わされておりますが、これは単に推進側である維新の呼称に過ぎません。実際、⼤阪市の選挙管理委員会が配布している正式の告知資料を⾒ても、「⼤阪都構想」という⾔葉は⼀⾔もなく、その標題は「⼤阪市廃⽌・特別区設置住⺠投票」となっております。同案の実態はその名の通り、①⼤阪市を廃⽌し、②旧⼤阪市が持っていた年間 8500 億円のうち 2000 億円の財源と権限を⼤阪府に移譲し、その代わりに③旧⼤阪市域内に四つの特別区を設置するというものです。そのため、同案が住⺠投票での多数決を経て可決しても、「⼤阪府」が「⼤阪都」になることは決してありません。にもかかわらず、このように実態に即さない「⼤阪都構想」という呼称が⼤阪各キー局などのメディアにおいて盛んに使⽤され、実質的に⼀種のプロパガンダとして喧伝されております。当会といたしましては、地⽅⾃治の主権者たる住⺠に正しい情報が伝わっていないことによって、⺠主主義による健全な地⽅⾃治が阻害されているのではないかという強い懸念を覚えます。府知事と市⻑がメディアに多く出演して実態に即さない呼称を使い続けることは、⾃らの政党の政策に関して説明責任を果たしていると⾔えないでしょう。
 また当会は、この制度改⾰案の内容に関しまして深い憂慮を抱いております。この懸念は、⼤阪維新の会のこれまでの施政⽅針に対する当会の⾒解に重なるものであり、それに重ねて表明されるものであります。論点は、次の三つです。

 第⼀に、⼤阪維新の会が進めようとしている地⽅⾃治体の権限と財源の集約化に対して、当会は強く反対いたします。
 ⼤阪市が廃⽌され、特別区が設置された場合、⼤阪市がこれまで⼀般財源としていた法⼈市⺠税・固定資産税等と地⽅交付税、事業所税・都市計画税等は、全て⼀度⼤阪府の会計に直⼊されることになります。更に、これまで⼤阪市が担っていた広域的な事務、すなわち成⻑戦略・広域的なまちづくり・港湾・広域的な交通基盤整備・公園・成⻑分野の企業⽀援・病院・⾼等学校・⼤学、そして消防や⽔道などの権限は全て⼤阪府に⼀本化されることとなります。⼤阪維新の会は、府から特別区に特別区財政調整交付⾦や⽬的税交付⾦として旧⼤阪市の財源の約 7 割が交付されるとしていますが、これは実質的に 3 割の予算が削減されることに等しいでしょう。以上の処置の帰結として、広域⾏政に関われず、常に⼤阪府に依存して財源を得ることになる特別区の権限は現⾏の⼤阪市と⽐べて⼤きく縮⼩することになり、住⺠サービスには市⺠の意思が反映されづらくなります。また、⼤阪市域の住⺠は⼤阪府内の約3割に⽌まるため、府議会においても、四つの特別区の住⺠はこれまでと⽐較して必然的に極めて不利な状況を強いられることとなります。結果として、⼤阪市域の地⽅⾃治は⼤きな後退を余儀なくされることになるのです。
 ⼤阪市廃⽌・特別区設置案は、⼤阪市域の住⺠の地⽅⾃治の財源と権利を奪うものであり、同地域の地⽅⾃治を⾻抜きにするものだと⾔えましょう。

 第⼆に、⼤阪維新の会が唱える「⼆重⾏政の解消」について、当会は⼤きな疑義を抱いております。
 ⼤阪維新の会は「府市⼆重⾏政の解消」「ムダな歳出の削減」を訴えており、当初は約 900 億円の歳出を⼤阪市廃⽌と特別区設置により削減できると唱えていました。しかし、住⺠サービスや諸事業の⺠営化・⺠間委託拡⼤などを除いた純粋な⼆重⾏政解消に伴うコスト削減はおよそ2億円から3億円である⼀⽅で、庁舎整備経費を含めたイニシャルコストは約 240 億円以上もかかると試算されております。歳出の削減のはずが、却って歳出を増やしてしまうことになるのです。
 しかもこの数字は、淀川区と天王寺区の特別区⼆区が北区の特別区本庁舎に「間借り」する計画の上で弾き出されたものです。災害時に⾃分の区から離れて業務を遂⾏していることになれば、危機管理や災害対策に⽀障が出ることも予想されます。このような有様では、現在コロナ禍や⼤阪万博準備に追われている府市職員は、更にのしかかる移⾏処理に忙殺されることになるでしょう。
 加えて⾔えば、⼤阪維新の会の提案によれば、府と特別区の間に四特別区が構成する⼀部事務組合が設置されることになります。実質的には「⼆重⾏政の解消」どころか「三重⾏政」の体裁を取ることになります。これは、特別区が担う住⺠に⾝近な業務のうちで専⾨性、公平性、効率性の確保が必要なものを担うことになる部署と⾔われています。しかし、そもそも市を解体して広域的な事務を府に移譲するのでないならば、このような⼀部事務組合は本来必要無いはずです。つまり現⾏の⼤阪市があれば、巨⼤な⼀部事務組合を⾔わば仮想の⼤阪市のようなものとしてわざわざ運⽤する必要は無いのです。しかも現⾏の⼤阪市が持っている政令指定都市の権限を失い、特別区へと分散させられた−⾔わば「格下げ」させられた形で、この⼀部事務組合は運営されることになります。政令指定都市である⼤阪市が分割され、⼩さな権限しか持たない特別区と⼀部事務組合、そして⼤きな権限を持つことになる府による「三重⾏政」になってしまえば、連絡や連携において⽀障を来たすどころか、場合によっては組織間のコンフリクトを引き起こす可能性すらあり、危機管理や防災に関して制度の統合的な運⽤が出来なくなるのは必定であると思われます。
 ⼤阪市廃⽌・特別区設置案は、「⼆重⾏政の解消」どころか、必要の無い事務⼿続きや⼀部事務組合との「三重⾏政」を作り出します。この制度改⾰は、厳しいコロナ禍対策と⽬前に迫る万博準備に追われる公務員に更なる無理を押し付け、その結果として危機管理や防災にも⼤きな⽀障を出すことになるのです。

 第三に、以前より⼤阪維新の会が推し進め、⼤阪市廃⽌と特別区設置によって決定的なものにしようとしている、住⺠サービスや公営事業の統廃合・⺠営化に対し、当会は強く反対いたします。
 ⼤阪維新の会はこれまでにも既に、全ての分野で統廃合と⺠間委託による「コストカット」を推し進めてきました。府⽴中央図書館と市⽴中央図書館、府⽴体育館と市⽴体育館、府⽴病院と市⽴病院、府⽴⾨真スポーツセンターと⼤阪プール、⼤型児童館ビッグバンとキッズプラザ⼤阪、⼤阪国際会議場とインテックス⼤阪、⻘少年施設、健康センター、動物管理センターなど枚挙に遑がありません。公設試験施設では、研究分野が異なる府の産業技術総合研究所と市の⼯業研究所、府の公衆衛⽣研究所と市の環境科学研究所も統廃合しました。後者の処置により、新型コロナ対策に⽀障が出たという話は記憶に新しいでしょう。
 また、各種の予算⾃体が減らされ、⺠間へと切り売りされている現状もあります。⼤阪の伝統⽂化である⽂楽や市の交響楽団への補助⾦を全⾯カット、学校の教職員の削減や⼈件費カット、学校司書の削減、⾼等学校など学校の統廃合、公⽴保育園の⺠営化、「敬⽼バス」の有料化、上下⽔道の福祉減免・新婚家賃補助・コミュニティバス(⾚バス)の廃⽌、直近では市営地下鉄や市営バスの⺠営化、⼀般廃棄物のごみ収集輸送事業や焼却処理業務の⺠営化など、⼤阪維新の会は数え切れない程ありとあらゆる場⾯で徹底して「コストカット」を推し進めてきました。役所の基本業務ですらこの動向の例外ではなく、⼤阪市各区役所の窓⼝業務は既に⼤⼿⼈材派遣業者パソナの⾮正規職員へ委託され、⼤阪府内の周辺市町村にも同様の営みが広がっています。パソナグループ取締役会⻑の⽵中平蔵⽒は、2012 年衆院選において、⽇本維新の会の候補者選定の委員⻑を務めており、⼤阪維新の会とも関係の深い⼈物です。また彼の肝煎りの提案である⽔道⺠営化への轍を、⾃ら先んじて進んでいるのが⼤阪維新の会とも⾔えます。これでは、⼤阪維新の会は「コストカット」の傍らで、⽵中⽒ら⼀部の財界関係者と組んで、地⽅公共団体の各種事業のうち「儲かる」ものを私物化しているのではないか、と疑われても仕⽅ありません。
 カネにならない事業ならば例え市⺠⽣活に必要なものであっても次々と切り捨てる――この⼀連の「⼩さな政府」化、住⺠サービスの市場化こそ、⼤阪維新の会の⾔う「既得権益の打破」の内情です。本来、⾏政とは利潤を多く⽣まないが市⺠⽣活にと って必要な各種のサービスや事業のために奉仕するものであるはずです。その⾏政の本義を忘却した⼤阪維新の会は、⾃らの⽅針を⼤阪市廃⽌・特別区設置によって決定的なものにしようとしているのです。

 ⼤阪維新の会は、「WTC(テクノポート⼤阪)」(⼤阪市)や「りんくうタウンゲートタワービル」(⼤阪府)など⼤型ハコモノ⾏政の破綻を「⼆重⾏政」の象徴としています。しかしながら今述べたように、彼らが強調する「⼆重⾏政」の「弊害」とは、実のところ、そのような⼀部のハコモノ⾏政の失策に⽌まらないのです。それは、基本的な⽣活や⽂化活動を⽀える住⺠サービスや公営事業のことに他ならないのです。彼等はこれらのサービスや事業を次々と市場原理に任せてしまい、採算が合わない事業はことごとく廃⽌しようとしているのです。代わりに「儲かる」事業として、コロナ禍以前はインバウンド、そして、⼤阪維新の会の指摘したハコモノ⾏政を遥かに上回る規模である、カジノを含む統合型リゾート(IR)の夢洲への誘致へとまっしぐらに向かっています。住⺠の税⾦をまるで株式会社の経常収⽀の如く資産運⽤し、住⺠の⽣活全般や⽂化活動を⽀えて充実させるという地⽅⾃治体の任務をあっさりと放棄する−⼤阪市廃⽌・特別区設置とは、⼤阪市を廃⽌して⼤阪府に統合することで府そのものを⾔わば営利企業化し、その事業を儲かる事業へと⼀本化する⼀⽅で、儲からない事業である最低限度の⾝近なサービスを⼩さな権限しか持たない特別区に押し付ける案であると⾔えましょう。
 ⼤阪市廃⽌・特別区設置案は、⼤阪維新の会が進めてきた、まるで営利企業のようなコストカットの断⾏と投機的な利潤追求への傾注を後戻り出来ないものにすることに他なりません。このような施策においては、今まで公費の負担で賄われていた多くの活動において市⺠が⾃ら費⽤を調達し、⽀払わなければならなくなります。そうなれば、⼤阪府内での⽣活⽂化の格差が拡⼤し、階層が分断されることは必定でしょう。つまり、この制度改⾰案が実現されれば、様々な住⺠サービスを市場化することにより、必ずや⼤阪市域の住⺠の⽣活や⽂化活動を破壊することになるのです。
 私達、名も無き市⺠の会は、近い将来「必ず来る」と⾔われている南海トラフ地震に対する対策を最優先すべきであると考えます。⼤阪市廃⽌・特別区設置が、⼤阪市域における巨⼤地震とそれによる津波に対する対策をあらゆる⾯において後退させてしまうこと、また、有事の際に⼤混乱を招きかねないことは、ここまでの⾏論により⼗全に御理解頂けると思います。
 ⼤阪市を廃⽌し特別区を設置することについての住⺠投票は、来たる 11 ⽉ 1 ⽇に迫っています。私達、名も無き市⺠の会としては、⼤阪維新の会の⽰す改⾰案に反対することをここに表明いたします。

(以上)

大阪都構想反対

https://www.nanashikai.org/wp-content/uploads/2020/10/大阪都構想反対.pdf